円形脱毛症とは
円形脱毛症は、頭髪や体毛が突然円形または楕円形に抜け落ちる疾患です。主な原因は自己免疫疾患と考えられており、免疫細胞が毛根を誤って攻撃することで発毛が阻害されます。かゆみや痛みはほとんどなく、気づかないうちに脱毛斑が生じることもあります。年齢や性別を問わず発症する可能性があり、単発型から広範囲の全頭型まで症状の程度はさまざまです。
JAK阻害薬とは
JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬は、炎症や免疫反応に関わるJAK/STATシグナル伝達経路を抑制する薬剤です。円形脱毛症では、自己免疫反応による毛包への攻撃を抑えることで、発毛を促す効果が期待されます。現在、日本で円形脱毛症に保険適応のあるJAK阻害薬は以下の2つです:
1. バリシチニブ(オルミエント®)
- 適応: 重症円形脱毛症(脱毛面積50%以上、罹病期間6か月以上)
- 対象: 15歳以上の成人
- 用法用量: 1日1回4mg経口投与(状態により2mgに減量)
- 特徴: JAK1/2阻害薬。国際的な第3相試験で有効性が確認され、2022年6月に日本で承認。3~6か月で発毛効果が現れることが多い。
- 注意点: 副作用として感染症(鼻咽頭炎、ヘルペスなど)、ざ瘡、コレステロール値上昇、CPK値上昇などが報告されています。
2. リトレシチニブ(リットフーロ®)
- 適応: 重症円形脱毛症(脱毛面積50%以上、罹病期間6か月以上)
- 対象: 12歳以上の成人および小児
- 用法用量: 1日1回50mg経口投与
- 特徴: JAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬。2023年6月に承認、2023年9月発売。JAK3に高い選択性を持ち、IL-15やIL-21のシグナルを抑制し、毛包への攻撃を軽減。発売後1年間は2週間までの処方制限あり(2024年9月以降は最大3か月処方可能)。
- 注意点: バリシチニブと同等の効果だが、効果発現がやや遅い。12~15歳の学童児に適応。
JAK阻害薬の使用条件
日本皮膚科学会では、JAK阻害薬の使用に以下の基準を設けています:
- 診断: 円形脱毛症の確定診断がなされている。
- 重症度: 頭部脱毛面積が50%以上、罹病期間が6か月以上。
- 検査: 投与前には血液検査(結核、B型・C型肝炎、腎機能など)および胸部X線検査が必要。
症例写真
リットフーロ投与前

リットフーロ投与後1年

治療費 約24万円(3割負担の場合)
副作用
- 感染症(上気道感染、帯状疱疹など)
- 血液検査異常(コレステロール値上昇、CPK値上昇など)
- その他(ざ瘡、頭痛など)
- 生ワクチン接種は禁止(コロナワクチン、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンは可)。
治療の流れ
- 受診: 円形脱毛症の診断を受ける。
- 検査: 血液検査や胸部X線で健康状態を確認。
- 治療開始: ガイドラインに基づき、適応が確認された場合にJAK阻害薬を処方。
- 経過観察: 3~6か月で効果を確認し、必要に応じて投与量調整や継続を判断。
- 副作用管理: 定期的な血液検査で副作用をモニタリング。